パルティアン・ショット

パルティアの主戦力といえば何だろう、という問いが投げ掛けられたとき皆さんはどう答えるだろうか。あ、世界史選択以外は知らない。なんとなく読んで欲しいなって……

パルティアン・ショット

騎兵、それも軽騎兵と答える人は「パルティア人のことは」よく勉強して知っていると言える。世界史の資料集にはイラン高原を出自とする騎兵が相手の脇をすり抜けざまに振り向いて矢を放つパルティアン・ショットが紹介されている。

だがセレウコス朝をシリアに追いやって大国となったパルティアがはたして軽騎兵を主力としたのだろうか?

確かに後のモンゴル人は軽騎兵空前絶後の大帝国を築いたが、それは短命に終わることとなった。機動力を最大の強みとする一方で弓矢という兵装の都合上どうしても継戦能力に欠ける軽騎兵では国境を維持するのは難しいだろう。

ならばパルティアの主戦力は何か、ペルシア帝国以来オリエントに君臨した重装騎兵である。弓を武器とする軽騎兵に対して槍騎兵だ。余談だが槍騎兵をドイツ語っぽく言うとランツェンレイター、格好良くない?ランサーとライダー足してるだけなんだけど。

でも、と反駁する人がいるかもしれない。カルラエの戦いでクラッススを惨敗せしめたのはスレナス率いる軽騎兵ではないか、と。

そう、そこがややこしい。当時のパルティア王はアルメニアとの戦いに軍の主力を振り向けており、臣下の大貴族であったスレナスは自らの私兵(貴族には軽騎兵のみ所有が許されていた)を率いてローマ軍に相対したのだ。

スレナスが世界の軍事史にその名を遺した所以は当時のパルティアで軽視されていた軽騎兵を有効に使ったことによる。彼は軍後方にラクダ隊を配して大量の矢を用意させた。さらに弓を改良して威力と射程を向上させたのだ。それまでのパルティア軍では開戦と同時に軽騎兵が矢を射掛け、矢が尽きれば槍騎兵が突撃するのが定番であり、カルラエのローマ軍もそれを予想して矢の雨に耐えていた。しかし尽きることのない矢はローマ兵を動揺させ、堅固な方陣を崩してしまったクラッススは結局敗死することとなったとさ。

金儲け以外は無能との呼び声が高いクラッススだが相手が独創性に溢れる名将だったのも災いしてしまった。

スレナスの編み出した軽騎兵活用術はその後彼が王に暗殺されたことで忘れ去られてしまったのでクラッススの不運はある意味二重のものであった。